「ユリ園幻想」前田晃

変わらぬ自然の美しさを、写真を通して伝え続けていく丹溪

株式会社 丹溪
「緑陰に咲く」前田晃

このブログでは、JPAA(日本写真エージェンシー協会)の会員会社を順次、紹介しています。
今回は、東京都港区に拠点を構える丹溪です。1967年に写真家・前田真三さんが設立し、写真活動を行ってきました。
これまでの経緯、また今後の展開について、代表取締役の前田晃さんにお話を伺いました。

丹溪の主な活動内容を教えてください。

父・前田真三が撮りためた写真と、僕が今、新たに撮っている写真、それらをストックして、活用することがメインの業務です。
枚数としては、自分のものよりまだ父の写真のほうが多いですね。先日、モノクロの写真をチェックしてみたら、約18,000点ありました。35mm、ブローニー、4×5なども。これにカラーを加えると、ざっと20万点はありそうです。

それだけの作品を、どのようにアーカイブしているのでしょうか。

この中で重要な作品は、約5,000点くらいだと思います。モノクロについては、1960年〜70年代前半に、父がまだサラリーマンだったころに撮影されたもの。出張先や山あいの風景が多く、当時の様子がはっきりと捉えられていて、時代考証的にも大切な記録写真です。ただすべてがフィルムのためビネガー症候群という劣化が始まっているものもあり、データ化が急がれます。
問題はデータ化すればそれで終了ということではなく、データはもちろん原本であるフィルム自体も保管しておかなくてはならないということ。その保管スペースも悩ましいです。またデータに移行するにしてもコストがかかりますので、どなたかいらなくなったスキャナーを処分するおつもりでしたら、ぜひお声がけください(笑)。

株式会社 丹溪
前田真三写真集『風景遍歴』(1997年 日本カメラ社)
株式会社 丹溪
「元旦の紅梅」前田晃
株式会社 丹溪
「海辺の伏流水」前田晃

以前と比べて、写真に対する人々の意識は変わったと思いますか?

今は、写真撮影だけではカメラマンが食べていけない時代になっていると感じます。スマホがあればそれなりの写真が簡単に撮れるし、一億総カメラマン化の時代。写真を使う側の意識も変化していて、ある程度のクオリティがあれば素人がその場でさっと撮った写真でもいい、それが安いからとビジネスになってしまっています。多少値が張ってもクオリティの高い写真を必要とされた時代と比べると、プロフェッショナルであることが受難になってしまっているようです。

そのような時代において、大切にしていることは何でしょうか。

弊社の場合はストックしている写真が風景や自然を扱ったもの。このような時代でも、そういった被写体に対する人々の欲求が尽きることはないでしょう。風景や自然は古びたりしないし、その移り変わりを捉えた写真に作家性があるのも、ウチの強みだと思っています。
写真そのものの魅力は変わらないですが、1枚の写真で何かを表現するのは難しい。ある程度まとまった量の写真を見せたり、テーマなどを設定したり、いろいろな要素や工夫が必要ですね。

株式会社 丹溪
「葉陰のネムノキ」前田晃
株式会社 丹溪
「夜明けの満月」前田晃

写真の持つ力とは、何だと思いますか。

風景写真は古びないとは言いましたが、見る人の心の持ちようが変わることもあるし、流行みたいなものもないわけではありません。今の時代に迎合しようということではなく、時代が持つ側面性を端的に表現できるのが写真の魅力ではないでしょうか。
とにかく派手な印象がある、ぱっと見て目を引くものがいい、そんな評価をされることもありますが、対象が地味でも心に残る表現はあるはず。自然の美しさそのものが、人の気持ちを動かす。そこに介在するのが写真なんだと思います。

今後の展開について教えてください。

まずは、大量のフィルムを整理してデータ化することですね。
それから、北海道・美瑛、東京・八王子、愛知・茶臼山の3カ所に写真ギャラリーがありますし、地方の美術館や写真展への貸し出しもしているので、そういった展示を充実させることも続けていきます。
僕には息子がいて、現在はデザインの仕事をしています。彼に手助けしてもらって、新しい感覚で写真の世界観を若い世代にも伝えられたらいいですね。人の心を動かす写真の魅力を、もっともっとアピールしていきたいです。

株式会社 丹溪
「桜と宝剣」前田晃
株式会社 丹溪
「もみじの葉陰」前田晃
前田晃写真展「季模様」

2016年7月27日(水)まで、東京・八王子「夕やけ小やけふれあいの里 前田真三写真ギャラリー」にて。前田真三写真展「絵模様」と併催。
トップ画像は「ユリ園幻想」前田晃。この写真も含め、記事内に掲載した写真は、写真展「季模様」より。

「風景のかたち―前田真三と現代日本の風景写真」

2016年8月6日(土)~10月10日(月)、栃木・足利「足利市立美術館」にて。


■株式会社丹溪
1967年
前田真三によって設立
1974年
初の写真集『ふるさとの四季』刊行
1978年
長男の前田晃が丹溪に入社
1987年
北海道美瑛町に写真ギャラリー「拓真館」を設立
2001年
東京都八王子市に「夕やけ小やけふれあいの里 前田真三写真ギャラリー」をオープン
2002年
愛知県豊根村に「茶臼山 高原の美術館」をオープン

<所在地>
東京都北青山2-7-26 メゾン青山402
TEL:03-3405-1681 FAX:03-3405-1683
http://harukanaruoka.com

■前田晃
1954年、東京都世田谷区生まれ。中学生の頃から父の撮影に同行、助手を務める。1993年から独自の撮影活動を開始。写真集に『Intimate Seasons/四季の情景』など。
株式会社丹渓 写真:今浦友喜