CEPICの総会で感じた、写真業界の世界的な潮流

CEPICとは、ヨーロッパを中心とする20カ国・約800のフォトエージェンシーが加盟する業界団体です。メンバーには規模の大小を問わずさまざまなフォトエージェンシーを始め、著名な美術館やギャラリー、通信社が含まれています。
WIPO(世界知的所有権機関)のメンバーとして著作権の保護に取り組むだけでなく、写真家とフォトエージェンシーの健全な関係を促し、業界全体の成長を促すための活動を行っています。

CEPICの総会は年に1回、開催されており、2016年は5月末にクロアチアの首都ザグレブにて開かれました。その総会に参加した、時事通信フォトの本山洋文さんにインタビュー。普段、海外の提携会社との連絡や調整、海外からの注文に応えて写真を配信するといった業務を行っている本山さんに、総会の様子や写真業界の世界的な潮流について感じたことを伺いました。

CEPICのHP
CEPICのHP。 http://cepic.org/
総会の様子は動画でご覧になれます。 http://cepic.org/congress

2016年の総会への参加者、参加国数はどの程度だったのでしょうか。

今年は34カ国から213社が参加、総会への参加登録者数は356人でした。これは例年より少ない人数です。

日本からの参加は、弊社とピクスタの2社のみ。私は2012年、2014年、2015年、そして2016年に参加していますが、今年は最も日本のエージェンシーの参加が少ない年でした。

日本だけでなく地元のヨーロッパのエージェンシーの参加も減っており、CEPIC事務局長のシルビ・フォドル(Sylvie Fodor)さんにお話を伺ったところ、参加者の減少は重大な問題だと認識されていました。

減少の理由については、まず写真を扱うエージェンシーの数が世界的に減っているということ。今年の初め、中国のビジュアル・チャイナ・グループがコービス・イメージズを買収したのは、大きなニュースでした。このように、業界が縮小傾向にあることが理由の1つと考えられます。

もう1つは、それぞれのエージェンシーが総会に派遣する人員を財政的な理由で減らしているということ。これはリーマン・ショック後の世界的景気減速からまだ抜け出ていないことなのだと認識しています。

CEPICへの、新規の参加会社は増えているのでしょうか。

これまでアジアからは、日本、韓国、インドからコンスタントに参加会社がいました。最近増えているのは、中国のエージェンシーです。

それから、マイクロストックの会社が複数参加しています。前述のシルビさんによると、クラウドソーシングを行う会社が増えているということでした。大量のビジュアルをクラウド上で管理し、その技術を使っていかに簡単に早く安く提供できるかが、デジタル時代の今、必要とされているのだと思われます。

CEPICでの会場の様子。
CEPICでの会場の様子。

2016年のCEPICでの大きなテーマは何でしたか。

CEPIC主催の大きな集まりの1つに、「IPTC (International Press Telecommunications Council/国際新聞電気通信評議会)メタデータコンファレンス」があります。2007年から毎年、開催されてきたもので、今年の議題には以下の3つが挙がりました。なお、①については、長年IPTCに関わってこられたelectric laneのサラ・ソンダース(Sarah Saunders)さんにご意見をいただきました。

①写真の価格が急落する中で、いかにライセンス収入を確保するか

ここ数年、写真業界の中でずっと問題になっているのが、写真の低価格化です。今までの売り方だと単価が下がると売り上げも下がる一方なので、コンテンツ、特にビジュアル素材を扱っている会社にとっては共通の悩みではないでしょうか。

その中で新たなビジネスモデルが生まれており、そのうちの1つが「フリーミアム」と呼ばれるもの。これは、フリー+プレミアムの造語で、最初は画像やコンテンツを無料で提供し、さらなるサービスが必要な人はお金を払うという課金スタイル。入り口は無料で途中から有料になるこのシステムは、写真業界の中では生まれたばかりで今後急成長が見込まれています。

また、従来型のライツマネージドに代わり、サブスクリプション(定額)のライセンス方式を導入している会社も増えてきており、写真の低価格化に拍車をかけています。

②著作権の保護

画像がデジタル化されるようになってから、著作権をどうやって守っていくかはもう何年も大きな課題になっています。その中でも特に、Webやソーシャルメディアに画像がアップロードされた際に、メタデータが消されてしまうという問題が話し合われました。

IPTCにおける独自の調査では、ほとんどのソーシャルメディアではメタデータが消されてしまっているか、適切に表示されていないことが判明しました。メタデータには画像の権利に関する重要な情報が含まれているので、これは問題です。とはいえ、ソーシャルメディアは自分たちの画像を宣伝してくれるツールにもなるわけで、そのメリットを最大限に活用しつつ権利を守るにはどうしたらいいかということが議題となりました。

③動画メタデータの標準規格を発表

これは「IPTCビデオメタデータハブ」というもので、2014年から議題にのぼっていて、今回ようやく最終案が出ることになりました。2016年10月末のIPTCの総会で決定する予定です。今後は動画の取り扱いも増えるであろうことを見越しての動きです。

IPTCでの会場風景。
IPTCでの会場風景。

この質問については、CEPIC執行委員会の会長であるアルフォンソ・グティエレス(Alfonso Gutierrez)さんから回答をいただきましたので、それを訳してご紹介します。

<回答>

市場の動向について、独善的に意見を述べることはできませんが、私の会社(訳注:グティエレスさんはage fotostock社の創業者)のダウンロードデータ(THP=Technological Hosting Platformの最近の画像ダウンロード状況に基づく)からは、次の傾向が見えてきます。

  • ライツマネージド(RM)→利用率の増加
  • ロイヤリティフリー(RF)→利用率の減少
  • 低価格RF→利用率の減少
  • 動画RM・RF→ごくわずかではあるが、利用は増加傾向

RMのライセンスは、出版などいくつかの使用方法・媒体で好調であり、利用が増加していると考えています。

一方、広告については、マイクロストックやRFへと移行しつつあり、そのため一部の例外を除いて、かつてのような高価格を維持することが難しくなっています。

さらに、下記のグレーで示した使用方法・媒体については、独占使用の保証を求めてRMが購入される傾向にあります。

■出版
■装飾
■広告
■パッケージ
■カレンダー
■旅行パンフ
■ゲーム、おもちゃ
■ニュース
■マルチメディア
■インターネット

青は好調グレーは低調赤は価格が変動

世界の市場は均一ではなく、どこも同じような変化が起こっているわけではないことを述べておきたいと思います。

ストックフォト市場は非常にダイナミックであり、常に新しい技術やビジネスモデルに適応してきているのです。たとえば、日本ではマイクロストックはまだ確立していないかもしれませんが、米国では既に成長の停滞期に達しており、「プレミアムRF」といったマイクロストックの欠点を補うビジネスモデルが生まれてきています。

CEPICの総会に参加されて、本山さん自身はどのような感想を持ちましたか。

時代の変化の中にあって、急に流れが変わったというよりは、ここ2、3年で感じていた流れがますます強くなったという印象を抱きました。スマホとソーシャルメディアの普及は写真の見方を大きく変えました。画像コンテンツの爆発的増加に伴う写真単価の下落は続いており、各社は新たな収入源を模索しているのではないでしょうか。ストックフォトの仕事がなくなるわけではないとCEPICでも話題にはなっていましたが、写真の価格がどこまで下がるかは心配ごとの1つです。

また写真が売れなくなってしまうとビジネスが成り立たないので、写真エージェンシーとしても報道機関としても大きな問題に直面しつつあるのだという実感を抱きました。

ヨーロッパのエージェンシーは4〜5人で経営しているなど、小規模な会社も多いのですが、それらが大手に飲み込まれないのは、医療や自然、建築など、専門性の高い分野に特化しているからです。そのような強みのあるエージェンシーとの情報交換ができたことは、非常に有意義だったと思います。


本山洋文(もとやまひろふみ)

Profile
2000年にパン・アジア・ニュースペーパー・アライアンス(現時事通信フォト)入社、旅行記事の翻訳、時事通信「デジタルフォトサービス」の開発などを手掛け、現在は海外エージェンシーとの交渉、及び英文エディターとして海外契約社向けのニュース写真配信を担当。


日本写真著作権協会常務理事・瀬尾太一さんに聞く【後編】著作権を取り巻く今後の動きと課題について

写真分野の統合組織として、写真業界における著作権活動を行ってきた日本写真著作権協会。時代の変化の波を受け、著作権に対してどのような活動を行っているのか、また今後の課題などについて、日本写真著作権協会の常務理事・瀬尾太一さんに、お話を伺いました。【前編】に続き、【後編】をご覧ください。

著作権の変化の流れは、どのような方向に向かっているのでしょうか。

著作権が、守るのではなく「使う」時代になってきたと強く感じます。「それは著作権があるから使ってはいけない」ではなく、「著作権が認められるので使用を許諾します」ということですね。「拒絶」ではなく「許諾」するための著作権であること。これは従来とは大きな違いです。

たとえば、以前に出版された写真集の中の写真を使いたいとします。写真集の版元に連絡をして著作権者の連絡先はわからないと言われると、著作権の確認ができないので写真は使えません。となったときに、その写真は使わない、あるいは許諾が取れないからパクっちゃおう、という事態が発生します。このように需要はあるのに許諾が取れず、使用できない状態を「市場の失敗」と呼びます。そしてこのような状態は、法的に使っていいという、著作権上の権利制限につながってしまいます。

また、写真は長い時間を経れば経るほど、その価値が上がります。たとえば渋谷駅の風景写真など、何十年も前の写真が貴重な歴史資料であると同時に、今撮影した写真は何十年後かに同じく貴重なものになるはずです。経年したときに、価値が劣化しないのです。その際に、著作権者が不明だと写真が利用できず、その価値は意味を失ってしまって上記のような権利制限が行われかねません。

このような権利制限を防ぐために、我々は許諾を円滑に行えるシステムを作って速やかに使えるようにしておかないといけません。そのためには、写真家だけではなく、あらゆるジャンルの著作権者が足並みをそろえ、一丸となって声をあげていかなくてはならないと考えています。

「著作権を使う」ことについて、うまくいった例はありますか?

「貸与権」がそうですね。これは本来、著作権者の許可なく著作物を貸与(貸し出し)してはならないということで、貸与許諾したものについては使用料を徴収できるという法律です。ですが、書籍や雑誌の場合は従来の貸本業者を守るために、この貸与権の行使が留保されていました。しかしレンタルショップの普及に伴い、無法地帯状態があまりにも広がりすぎたため、我々の主張で著作権者を守るために留保条項をはずし、漫画を含む書籍や雑誌に貸与権を適用。結果、著作権者に貸与料が入るようになり、コミックレンタルは今や25億円の市場となりました。

もう1つ注目したいのは「追求権」です。これはうまくいった事例ではなく、これから何とかしたいもの。たとえば自分の作品を1万円で売ったとします。その買い手が手に入れた作品を100万円で売却することができ、その次の書いては500万円で売ったとしても、最初の売り手である著作権者には何も入ってきません。転売のたびに売れた金額の一部を著作権者に支払えるようにする追求権を、日本でも根付かせたいと思っています。

そして最大の問題は、オーファン・ワークス(孤児著作物)。著作権者不明の著作物のことで、許諾が取れないため使用できないものがあまりにも多すぎます。このままですと、先ほど述べたように市場が失敗しているとみなされ、権利制限がかけられる恐れもあるため、日本写真著作権協会と他の権利者団体が連携してプランを作り、解決に向けて動いています。


前編】でもご紹介した、権利者団体とのネットワークの関係図。関係省庁はもちろん、美術や文芸、漫画といったさまざまなジャンルの権利者団体と連携しています。

著作権を取り巻く環境が変わる今、どんな対応が必要だと思いますか。

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が発効されることで私が懸念しているのは、アメリカ式の懲罰的な法廷賠償制度が導入されないかということです。訴訟社会のアメリカと違って、アジア型の権利処理方式としては、白か黒かで決着をつけるのではなく段階によって許諾の仕方を分けたほうがいいと考えています。これは私が委員も兼ねている、内閣府の知的財産戦略本部が出した「知的財産推進計画2016」にも掲載しています。

●知的財産戦略本部
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201605/09chizai.html

●「知的財産推進計画2016」概要
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku20160509.pdf

大切なのは、著作権の利用者と権利者の対立構造を作らないこと。そのための手段の1つとして、「ジャパコン(ジャパン・コンテンツ・ショーケース)」というサイトを、経団連がメインで作りました。これは日本のコンテンツを海外に向けて発信するための英語サイトで、Facebookのフォロワーは69万人を突破。アジアの若者たちを中心にフォロワーが広がっています。こういったサイトで写真、アニメ、映画、音楽、コミックといったジャンルの垣根を越えたつながり、さらにコンテンツの利用者と権利者のつながりを持つことで全体を把握すれば、あらゆる分野の権利を守ることに役立つのではないかと考えています。

商標権、肖像権、意匠権といったさまざまな著作権について、今後どんな動きが見込まれますか。

写真だけの著作権というカテゴリー分けは、もう古いですね。なぜなら、知財として今、最も注目すべきは、AI(人工知能)とビッグデータです。AIについては、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれる新しい技術によって、それまでは人間がプログラムしたことしかできなかったことが、AI自らが学習して成長していくことが可能になりました。

著作権法の根底にあるのは、人の思想または感情を表現したものに著作権があるという考えです。でも今や、創作物は人だけが作れる時代が終わろうとしています。人ではないものが作ったものに著作権はないという定説が、今後は通用しなくなるかもしれません。これからの日本の知財は今までと違うカテゴリー分けを行う必要があり、そのうえで大量のコンテンツや著作物を守るための法律が必要になってくるでしょう。

人の手によらない創造物は、現状では著作権法の枠にはまらないし、それを認めるために法律を大きく変更することで既存の著作権者が不利益を被ってもいけない。そのバランスを取りながら、お互いの共存共益を図ることが今後の課題です。

このような状況の中、日本写真著作権協会としては単に写真の著作権問題だけを扱っていればいいとは考えていません。美術や文芸などさまざまな分野と連携して広範な著作権問題の解決に加わり、それを法律、制度として確立する役割を担っていきたいと思っています。


瀬尾太一(せおたいち)
写真家、日本写真著作権協会常務理事、日本複製権センター副理事長(専務理事代行兼務)

Profile瀬尾太一(せおたいち)
2002年より、文化庁・文化審議会著作権分科会委員(現職)、法制問題小委員会、契約流通小委員会等委員を歴任して著作権に関わる。
また、内閣府知財戦略本部・検証評価企画委員会、次世代システム検討委員会等の委員として知財政策に取り組むかたわら、写真家をはじめとする著作権者のデータベース構築にも参加し、現在、クールジャパンの情報発信を担う、経団連コンテンツポータルサイト「Japacon」統括主査。
これまでに、個展「異譚」(1992年)、「裸行」(1997年)、「幻花の舞」(2011年)などを開催。